債務調査

はじめに

 まずはじめに知っていただきたいこと,それは貴方が貸金業者から請求されている金額は,本当に支払い義務のある金額とは限らないということです。

 詳しい法律の説明を省いたうえ,誤解を恐れずに言うならば,貸金業者が,これまで貴方から徴収してきた利息が,法律上認められない違法金利に基づく利息である可能性があるのです。

 そこで,債務整理は,この違法金利に基づいて行われてきた貴方と貸金業者との取引を,適法金利に基づいて引き直し計算し,法律上支払義務のある真の債務額を確定させることから始まります。中には,引き直し計算の結果,ほとんど債務が残っていない,あるいは利息を払い過ぎている(過払い)といった場合も珍しくありません。

利息制限法第1条と旧貸金業法第43条

 民事の世界においては,契約内容等は,原則として,当事者の合意により自由に定められることができます。いわゆる『私的自治の原則』と呼ばれています。

 しかしながら,この『私的自治の原則』を貫徹すれば,立場が対等ではない者との間において,立場の弱い者が著しい不利益を甘受しなければならないという事態が起こってしまいます。

 そして,それは金銭の貸し借りと言う場面において,最も鮮明なものとなります。すなわち,資金繰りに窮する借主は,融資を受けるためには,貸主の提示した条件を受け入れなければならず,貸主の言いなりとならざるを得なくなるからです。

 そのような,貸主の暴利行為に歯止めをかけるために,昭和29年,金銭の貸し借りにおいて,いかに当事者の合意があっても,これに反する定めをすることができない強行法規として,利息制限法が制定されました。

 ところが,昭和29年に制定された利息制限法は,貸金業者の暴利行為を防ぐ目的で制定されましたが,残念なことに,同法には罰則規定がなく,貸金業者を取り締まることができず,法規制はなきに等しい状態でした。そして,昭和50年代,極めて悪質な貸金業者が横行し,借金苦による自殺や夜逃げ等,大きな社会問題が発生し,これに対処することが急務とされました。

 そこで,昭和58年に,「出資の受け入れ,預かり金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)」と「貸金業の規制等に関する法律(貸金業法)」の,いわゆる『サラ金2法』が制定されることとなりました。

 貸金業法が制定され,貸金業者には,登録制の導入や過剰融資や誇大広告を禁止,さらには契約書面(17条書面)や受取証書(18条書面)の交付を徹底等々様々な業務規制が課されることとなりました。

 しかしながら,同法は,貸金業者に様々な業務規制を課した見返りとして,貸金業者に一つの恩恵を与えました。それが,同法第43条,いわゆる「みなし弁済」の規定です。「みなし弁済」規定とは,貸金業者が,①登録貸金業者で,②法定の契約書面(17条書面)及び③法定の受取証書(18条書面)を適切に交付したうえで,④業として行う金銭消費貸借上の利息の支払いに関し,⑤債務者が利息制限法所定の制限をこえる利息を任意に支払った場合には,出資法に定める上限金利までの利息を有効に収受することができるというものです。まさに,『アメとムチ』の『アメ』であると言えます。

 この出資法に規定する上限金利と利息制限法に規定する上限金利とが異なることで,利息制限法に規定する上限金利を上回り,違法で無効な金利でありながら,出資法に規定する上限金利を下回り,刑事罰が課されることのない金利,いわゆる『グレーゾーン金利』が存在することになり,これが様々な紛争の火種となってきました。(平成22年6月18日の同法改正により,ようやく,出資法の上限金利が,利息制限法の上限金利まで引き下げられました。)

平成17年最高裁判決

 最高裁判所は,経済的弱者保護をその制度趣旨とする利息制限法の強行法規性を重視し,「みなし弁済」の成立には厳格な態度を示してきました。

 そして,平成17年12月15日,最高裁判所は,貸金業者は,借主が借入限度額の範囲内であれば繰り返し借入れをすることができ,毎月定められた返済期日に最低返済額以上の元金を経過利息と共に返済するという内容の金銭消費貸借基本契約に基づく貸付け(いわゆるリボルビング方式の貸付け)をしたときには,各貸付けごとに借主に交付すべき貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に,「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」として,当該貸付けを含めたその時点での全貸付けの残元利金について,毎月定められた返済期日に最低返済額及び経過利息を返済する場合の返済期間,返済回数及び各回の返済金額を記載すべき旨判示し,当該判決により,リボルビング方式による貸付を行っている多くの貸金業者にとって,「みなし弁済」が成立する余地はほぼなくなりました。

平成18年最高裁判決

 平成18年1月13日,最高裁判所は,利息制限法所定の制限を超える約定利息と共に元本を分割返済する約定の金銭消費貸借において,債務者が,元本又は約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約の下で,利息として上記制限を超える額の金銭を支払った場合には,債務者において約定の元本と共に上記制限を超える約定利息を支払わない限り期限の利益を喪失するとの誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り,制限超過部分の支払は,貸金業の規制等に関する法律43条1項にいう「債務者が利息として任意に支払った」ものということはできない旨判示し,これにより,現行の金銭消費貸借取引については,「みなし弁済」が成立する余地はほぼなくなった。貸金業者をして,当該判決により,貸金業法第43条は死文化したと言わしめるに至りました。

取引履歴の開示

 平成18年判決により,「みなし弁済」が成立する余地がなくなった今,貸金業者が利息制限法所定の上限利率を超える約定利率に基づく残元金は,債務者が,法律上支払うべき義務のある債務額を超えるものであり,架空請求とでもいうべきものです。

 そこで,債務整理の第一歩として,債務者が,法律上支払わなければならない債務額を確定させなければなりません。そのためには,債務者が,貸金業者から,いついくら借りて,いついくら返したかを知る必要があります。

 しかしながら,ほとんどの債務者が,貸金業者から,いついくら借りて,いついくら返したかが分かる明細書や領収書を所持しておらず,それを知る術を持ち合わせていません。一方,貸金業者は,種々の法律により,契約書その他取引関係書類の保存が義務付けられておりそのため,貸金業者が保有している取引履歴を開示してもらう必要があります。

引き直し計算

取引履歴の確認

 貸金業者より取引履歴を入手したら,全取引が開示されているか確認していただきます。さすがに,最近では手の込んだ改竄をした取引履歴を開示してくる貸金業者は,ほとんどいないと思われますが,取引の途中で契約を書き換え,借り増しをしている場合などは,契約書換後の取引履歴のみを堂々と開示してくる貸金業者や,平成5年または平成7年以前の取引記録は既に破棄したとして,明らかに途中からの取引履歴を開示してくるケースもあります。

 いずれにしても,開示された取引履歴が,ご自身の記憶と相違ないか,特に取引開始時期についてはしっかりと確認していただきます。いつごろから取引をしていたか,とたずねると,「わかりません。」「憶えていません。」と言った答えがすぐに返ってきますが,例えば,結婚したときには既に貸金業者から借入をしていたか?とか,平成7年の阪神大震災の時には既に取引していましたか?等と,ご自身のライフステージと合わせて尋ねてみると,案外記憶がよみがえってきたりします。そのうえで,全取引が開示されていない場合には,改めて全取引を開示するよう貸金業者に対して強く要求していく必要があります。

引き直し計算

 続いて,貸金業者より開示された取引履歴をもとに,「引き直し計算ソフト」を使って,利息制限法所定の利率に基づいて引き直し計算をします。それにしても,便利な世の中になりました。表計算ソフトがなかった時代には,引き直し計算は手計算で行っていたのでしょうから,過去に偉大な判例を築き上げてこられた弁護士先生には頭が下がります(それどころか,コピー機もなかった時代には,訴状や書証の写しも全て手書きだったのでしょうから,これまた頭が下がります。)。ところで,取引履歴の開示から引き直し計算,更には貸金業者との交渉までご自身でされる方もおられるでしょうから,お節介かもしれませんが,おすすめの引き直し計算ソフトを紹介しておきます。

手続き選択

手続き選択のフローチャート

 もはや「みなし弁済」が成立する余地はなく,貸金業者から開示された取引履歴をもとに,利息制限法所定の利率に基づいて引き直し計算を行い,法律上支払うべき債務額或いは返還を受けるべき過払い金額を確定した後,家計や収入の状況,法律上或いは事実上の手続障害等,様々な要因を勘案して債務整理の手続を選択することになりますが,概ね以下のフローチャートに沿って判断していくことになろうかと思われます。

 但し,上フローチャートは,あくまでも手続選択の一例とお考えください。例えば,自己破産と個人再生の選択基準として,再生計画の遂行が可能なら個人再生,再計画の遂行が不可能なら自己破産として,自己破産よりも個人再生を優先して検討すべきとする専門家もいれば,自己破産が可能ならば,まず自己破産を検討し,職業制限や免責不許可事由等,自己破産を申立てるにあたって障害となる事由がある場合に,続いて個人再生を検討すべきとする専門家もいます。

 債務整理の手続選択については,ご自身の債務や収入の状況及び今後予想される生活変化等を総合的に勘案したうえで,専門家とご相談のうえ,ご自身が納得できる手続を選択してください。

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